気候変動をめぐる、日本社会の生活者インサイトとは
近年、日本各地で猛暑や豪雨などの異常気象が相次ぎ、多くの人が気候の変化を肌で感じるようになりました。子どもが屋外で遊べない日が増え、屋外で働く人々の安全確保はますます難しくなっています。気候変動による野菜など食料価格の上昇も指摘され、私たちの日常に直接的な影響を及ぼしています。
しかし、日本の脱炭素推進における生活者インサイトを読み解くと、その捉え方はさまざまです。
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、JCLP)が行った専門家ヒアリング等による分析によれば、「最近の気象がおかしい」と感じている人は約95%にのぼる一方で、それを人為的な気候変動と結びつけて理解している人は約半数にとどまっています。さらに、その影響を自分自身の課題として捉えたり、政策や社会システムの変革を求めたりする層は限定的であることが示されています。

出典:JCLP「気候変動に関する世論の構造とJCLPの対応について」
つまり、以下のような課題が浮かび上がります。
【現状】 気候の変化には気づいている
【課題①】 しかし原因の理解には至らない
【課題②】 自分ごととしては捉えられない
【結果】 行動や政策支持にはつながらない
また、日本では1997年の京都議定書採択以降、「エコライフ」「チーム・マイナス6%」「Cool Choice」「デコ活」など、個人の行動変容を促す取り組みが長年続けられてきました。しかし一方で、「ひとりひとりの努力」に過度な期待を寄せるアプローチだけでは、社会全体の構造転換につながりにくいという課題も指摘されています。また、家庭部門のCO₂排出削減においても、日常のこまめな行動による削減ポテンシャルは限定的であり、より大きな変化にはエネルギーやインフラ、産業構造そのものの転換が必要だとされています。

出典:JCLP「気候変動に関する世論の構造とJCLPの対応について」
気候変動への関心はある。危機感もある。
しかし、家庭での節電や身近なエコ活動だけでは、CO₂排出量の削減や温暖化対策として十分とは言えません。より大きな成果を生み出すためには、企業や自治体、エネルギーのあり方を含めた社会全体の変革が必要です。
一方で、気候変動対策はしばしば誰かの「我慢」や「コスト」として語られることも多く、多くの人が必要性を理解しながらも、「自分一人に何ができるのだろうか」という戸惑いを抱えています。
その結果、脱炭素に向けた行動変容や社会の選択は思うように進まず、求められる変化のスピードとの間にギャップが生まれています。この「認識と行動のギャップ」こそが、日本における脱炭素化のボトルネックとされています。
*日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)について
脱炭素社会の実現には産業界が健全な危機感を持ち積極的な行動を開始すべきであるという認識の下、2009年に発足した企業団体。幅広い業界から230社超が加盟(2026年8月時点)。加盟企業の売上高合計は約136兆円、総電力消費量は約74TWh(概算値)。2017年より国際非営利組織The Climate Groupの公式地域パートナーとして、日本におけるRE100、EV100、EP100の窓口・運用も担う。
JAPAN 8・8 PROJECTを自分ごと化のきっかけに
こうした課題意識から生まれたのが、「JAPAN 8・8 PROJECT」です。

@JAPAN 8・8 PROJECT(https://www.japan88.jp/)
プロジェクトの出発点となったのは、「気候変動をもっと自分ごととして捉えてもらうにはどうすれば良いか」という問いでした。そこで着目したのが、一年の中でも人々が最も異変を実感しやすい8月上旬の暑さです。
昨年、JCLP は、暑さが終わらない現状への問題意識から、「暑すぎる夏を終わらせる日」として、8月8日を日本記念日協会に登録し、気候変動と暮らしの関係を伝える世論喚起活動を展開してきました。そして2026年、さらに社会を動かす力へとつなげることを目指し、この記念日を起点に8月1日から9日を「暑すぎる夏を終わらせるWEEK」とし、様々な情報発信を目的とした活動を展開しました。
JAPAN 8・8 PROJECTが目指したのは、単に環境問題を訴えることではありません。
猛暑による働き方の変化、子どもの外遊びの制約、農業や食料への影響など、誰もが共感しやすい生活上の変化を入口にして、「それは気候変動とつながっている」という理解を広げること。そして、気候変動を未来の話ではなく、今の暮らしや仕事に直結する課題として捉えてもらうことでした。
その象徴的なメッセージが、「暑すぎる夏を終わらせる」という言葉です。
気候変動を抽象的な環境問題として語るのではなく、誰もが実感する暑さから社会全体の課題へと視点を広げる。このアプローチは、40以上の企業や団体の共感と賛同を得て、多様なステークホルダーが参画する全国規模の取り組みとして展開されました。
アイ・グリッドが参画した理由
私たち、株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(以下、アイ・グリッド)は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入やエネルギーマネジメントの現場を通じて、気候変動がすでに事業や暮らしの前提条件を変え始めていることを実感しています。
地域で再エネをつくり、無駄なく使い、無理なく選べる仕組みを社会に実装することで、脱炭素は生活や事業の合理性と両立できる。気候変動対策は、誰かの「我慢」や「コスト」ではなく社会の仕組みのアップデートであると考えています。
だからこそ私たちは、このプロジェクトに参画しました。
エネルギーの仕組みの進化によって、その先にある選択肢を増やし、暑すぎる夏を終わらせる未来に貢献したいと考えています。
2050年の天気予報が問いかけた未来
JAPAN 8・8 PROJECTでは、気候変動が進んだ未来を社会に問いかける象徴的なコンテンツとして、「2050年の天気予報(Ver.2)」を発信しました。これは、気候変動の影響を単なる数字やデータではなく、誰にとっても身近な天気予報というフォーマットによって、私たちの日常に引き寄せて考えるための試みです。
この動画のもとになったのは、2014年に国連気候サミットに合わせて制作された「2050年の天気予報」日本版です。しかし、それから12年の間に状況は大きく変化しました。
当時は2050年頃に起こると想定されていた現象の一部が、すでに現実となり始めています。例えば、熱波の影響で真夏日がお彼岸まで50日以上連続すると予測されていた状況は、2023年に東京都心で64日連続という記録によって、現実のものとなりました。こうした現状を踏まえ、気候変動の加速する実態と最新の気候科学の知見を反映し、新たに制作されたのが「2050年の天気予報(Ver.2)」です。
©「2050年の天気予報」製作委員会
40℃を超える酷暑日が当たり前となり、外出自粛が呼びかけられる夏。最大瞬間風速100メートル毎秒を超えるスーパー台風による甚大な被害。さらには、農業や漁業への深刻な影響による食料危機。
そんな悲惨な未来を映し出したあと、動画は静かに問いかけます。
「2050年、あなたとあなたの大切な人は何歳ですか?」
描かれた未来は、一見すると極端な予測のように見えるかもしれません。実際、前作が発表された当時も、多くの人にとっては遠い未来の話であり、現実離れしたものでした。未来予測が現実に追いつき始めた今、この動画が問いかけているのは2050年の話ではなく、“今の私たちの選択”です。
私たちがこの動画から受け取ったメッセージも、「未来はどうなるのか」ではありません。「その未来を前提に、企業や社会は何を選択するのか」という問いです。
脱炭素は環境問題として語られることが多い一方で、実際にはエネルギー、安全保障、人材確保、サプライチェーン、地域経済といった、企業経営の根幹に関わるテーマでもあります。気候変動の影響が事業環境そのものを変えつつある今、問われているのは将来予測の正しさではなく、その変化を前提にどのような事業や社会の仕組みを選択していくかです。
だからこそ私たちは、気候変動を単なるリスクとして捉えるのではなく、社会や事業のあり方を再設計する契機として探求したいと考えています。
では実際に、気候変動による影響は私たちの暮らしや産業の現場にどこまで広がっているのでしょうか。そして、その変化を最前線で見ている人々は何を感じ、どのような未来を描いているのでしょうか。
2026年8月7日に開催されたフラッグシップイベント「暑すぎる夏を終わらせる日」では、科学者や有識者、企業、自治体、スポーツ・農業などさまざまな分野の専門家が集まり、気候変動の現在地と、社会に求められる変化についてリアルな議論が交わされました。
▶第2回連載に続く【第2回 産官学のリーダーたちが語った気候変動の現在地 】

